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閉塞感を吹き飛ばしてくれるミュージカル、『ピーターパン』

ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』の公開ゲネプロを観に行った。

恥ずかしながら、『ピーターパン』を観るのはこれが初めてで、ミュージカルを中心に観劇、取材をしている身でありながら、この歴史ある有名な作品に触れる機会がなかった。いや、何度もあったはずなのに、勝手に「自分向けではない」というカテゴリーにおさめてしまっていたのだ。結果、「あー、あの作品か」と知ったように通り過ぎてきた自分を猛烈に恥じたし、これまで観なかったことを後悔することになった。
それぐらい、素晴らしかったのだ。ミュージカル『ピーターパン』という作品が。正直、観劇中に何度も感極まって涙することになるとは思わなかった。

 

劇場を包み込むような、ゆったりとした曲調の音楽からは始まる本公演。生のオーケストラの演奏があるのは東京公演のみだそうだが、全編にわたりこのあたたかみのある楽曲、演奏がとにかく素晴らしい。

ピーターパンを演じる吉柳咲良は、4度目の主演とあって堂に入った姿がさすが。それでいて瑞々しく、軽妙なキャラクター表現が見ていてたのしい。ピーターがウェンディたちの家の窓からピューンと飛んでくる登場シーンで、すでに心を掴まれてしまった。(ここで拍手したかったけどぐっと我慢した)澄んだ歌声、躍動する身体にもすっかり魅了された。

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 小西遼生演じるフック船長は、どうにも憎めない人間臭さとチャーミングな一面が魅力的。(あと、「フック船長、足長い!!!」って10秒に一回くらい思った)
これまでミュージカル等で演じてきた二枚目な役柄とはかけ離れた新境地を見せていて、エポック的な役になるのではないかと感じたし、今後どんな役を演じていくのかもたのしみになった。

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 ダーリング家の子供たちもたいへん魅力的で、長女のウェンディを演じる美山加恋の徹底した声色の作り方、物おじせず大胆な少女像が印象深く、終盤の大人になった姿との演じ分けも見事だった。長男のジョン、次男のマイケルを演じる子役たちも大活躍で、ついつい目が追ってしまう。マイケルのロンパースにクマのぬいぐるみを持っている姿なんて、あまりの可愛さに顔がゆるんでしまうほどだが、マスクがあるのでいくらでもゆるんで大丈夫だ。

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ピーターに妖精の粉をかけられて三人がたのしそうに飛ぶ姿は、子供たちの純粋な歓びと煌めきがまぶしく、宙を舞う彼らを見上げながら、気づいたら涙が流れていた。
ピーターや子供たちが軽やかにフライングする姿は、閉塞感から一瞬で解き放ってくれるパワーがあり、心が浄化されるようだった。
フライングだけでなく、劇中ではこんなふうに心にスッと新しい風を吹き込んでくれる場面がたくさんあるので、不安に覆われた今の時世だからこそ、観れてよかったし、観てほしい作品だと心から思った。

ネバーランドの迷子たちを演じる俳優陣の巧みさ、タイガー・リリー(宮澤佐江)率いるインディアンたちや、フック船長の手下の海賊たち、舞台上の全ての役者のレベルの高さについても触れておきたい。ファンタジーの世界を構築し観客を誘うには、高い技術力が必要であることを実感したし、だからこそ得られた満足感だったのだろう。

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 派手なプロジェクションマッピングなどに頼らず、シンプルな道具、美術で演劇の持つ力を最大限に引き出した森新太郎の演出も非常に効果的だったと思う。

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 今年で日本公演40周年を迎える『ピーターパン』。「子供向け、ファミリー向けの演目でしょ?」と先入観を持っている方にこそ、ぜひとも全力でおすすめしたたい。この夏に『ピーターパン』デビュー、すっごく心に“効く”と思います。(実感を込めて)

 

ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』公式HP

〔オフィシャル舞台写真:ホリプロ提供〕