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ドレスを着て走り出したくなる!ミュージカル『ジェイミー』が開幕

この夏の本命ミュージカル、『ジェイミー』の初日組(Wキャスト:森崎ウィン田村芽実佐藤流司)のゲネプロを観てきた。

『ジェイミー』は、実際にあったドキュメンタリーをもとに制作されたイギリス発のミュージカルで、今回の上演が日本初演となる。
主人公のジェイミーは、ドラァグクイーンを夢見る高校生。高校最後のプロムに、「自分がしたい恰好」で参加すべく奮闘する姿が、学校や家庭、周囲の大人たちの関係性の中で描かれていく。
“学園もの”のポップさと、セクシュアルマイノリティとして生きるジェイミーに立ちはだかる偏見や差別、それに立ち向かう葛藤や闘いという切実なテーマが、絶妙なバランスで融合されているのが魅力の本作。
プリシラ』や『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』『キンキーブーツ』など、ドラァグクイーンが主人公の人気ミュージカルは日本でも幾度と上演されているが(もちろん全部大好きな作品!)、『ジェイミー』はまさに現代を生きる10代の物語で、ドラァグクイーンを目指す〔過程〕を描いているところに新しさを感じた。

ジェイミーを演じる森崎ウィンは、期待通りの素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。冒頭に歌われるノリのいいナンバー、「誰もしらない」をはじめ、その愛らしい笑顔と周囲を巻き込み味方に変えていく陽のパワーに、あっという間に虜に。

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芝居では、不安や失意の底で揺れ動く心情を丁寧に演じる姿に引き込まれた。(そして真っ赤なヒールを履く美脚にも目が吸い寄せられた)
彼を初めてステージで観たのは、7,8年ほど前、当時活動していたPrizmaXというダンス&ボーカルユニットのライブで、当時もその伸びやかな歌声が印象的だったが、時を経て、この大きな舞台の真ん中で“ジェイミー”として生き、力強い歌とダンスで客席を魅了する姿には感慨深いものがあった。新しいミュージカルスターとして、これからもいろんな作品に出てくれることを期待したい。

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クラスメイトのプリティは、ジェイミーの親友で良き理解者。彼女は宗教的な側面でクラスの中ではマイノリティな存在、かつ「ガリ勉タイプの処女」として、いわゆるスクールカーストの上位の生徒たちから、からかいの対象とされているところがあるのだが、彼女のぶれない真っすぐさ、他者を尊重し思いやる姿は、ジェイミーだけでなく、観るものの気持ちも勇気づけてくれる。彼女がなぜ自分は「ヒジャブ」を纏っているのか、とジェイミーに語りかけるシーンも心に残る。二人の友愛のうつくしさが、とにかく眩しいのだ。プリティを演じる田村芽実の素晴らしい歌唱シーンにもぜひ注目してほしい。

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ジェイミーの“人生の先輩”として、優しさと厳しさを持って見守り、背中を押してくれるヒューゴ(兼ロコシャネル)を演じる石川禅の、あたたかさとチャーミングさ、存在としての大きさが物語をしっかり支えている。ヒューゴとロコシャネルの姿のギャップもおたのしみのひとつ。

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「えっと、このお三方の姿を堪能するだけの回のチケット必要だな???」と思わされた、年季の入ったお姉様たちを演じる今井清隆、吉野圭吾、泉見洋平の存在感も圧巻であった。ちょっとお下品で明け透けなやり取りも含めて、彼らが出てくると思わず笑いがこぼれるし、何より一気にステージが華やぐ。とくに吉野さんの尻が出てるのに気品溢れるドラァグな姿にはなんだか平伏したい気持ちになった。

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そしてなんといっても、ジェイミーを大きな愛で包み育てた母親のマーガレットという存在なしに、この作品は語れないだろう。
安蘭けい演じるマーガレットは、前夫と離婚し、一人でジェイミーを育ててきた。誕生日プレゼントに赤いヒールを息子にプレゼントし、わが子の好きなもの、生きたい道を尊重し応援する姿は、何より「かっこいい」。
ジェイミーを思っての嘘が、彼を傷つけることになり、酷い言葉を突きつけられるシーンは胸が痛む。その後に続くわが子への想いを歌うナンバーは、涙なしでは聞けなかった。

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ジェイミーがジェイミーらしくいられ、自分の望む道を(時にくじけそうになりながらも)目指して行けたのは、間違いなくマーガレットの深い愛情と理解があったからだ。そして、マーガレットの友人で、親子に寄り添い支えるレイ(保坂知寿)の存在も、隣人としてかくありたい、と思わされる姿だった。

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ジェイミーの最後のプロムはいかに――。最後まで一筋縄ではいかない展開だが、結末はぜひ劇場で目撃していただきたい。きっと、大きな虹がかかった空を見たような気持ちになれるはずだから。

『ジェイミー』公式サイト

〔photo&text:Kaho Furuuchi〕