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ボン・ヴォヤージュ!「世界ふれあい街歩きコンサート」で味わう2時間の贅沢な旅

1日限りの贅沢な公演、NHK世界ふれあい街歩きコンサート」が10月6日、LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)にて開催された。

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NHK BSプレミアムで放送中の「世界ふれあい街歩き」は、旅人の目線で世界の街を歩き、人々との出会いやその日常を楽しむ様子が魅力の人気番組。
このコンサート版では、過去放送回からヨーロッパ各国の映像を厳選し、番組テーマ曲を担当する作曲家・村井秀清が率いるアンサンブルの生演奏で観客を“旅”へと誘う。

ナビゲーターは、番組のナレーターも務める浦井健治
演奏と共に、旅行鞄を持ち元気よくステージに現れた浦井は、まさに「旅人」そのもの。その姿に、「これから旅が始まるんだ」と観ているこちらも気分が高揚する。

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旅の始まりは「パリ」から。エッフェル塔セーヌ川など有名な観光場所から、人々が集う街中のカフェまで、美しい景色と日常風景が大きなスクリーンで流れ、浦井の生のナレーションで映像の中の人々と“会話(ふれあい)”が交わされる。その様子を温かみ溢れる楽曲と演奏が彩っていく。
パリと言えば、やっぱりあの曲!「1曲歌っちゃおうかな」と、浦井が軽快に「オー・シャンゼリゼ」を歌い出すと、会場からは自然と手拍子が発生。観客はひととき一体感に包まれ、浦井の美声に酔いしれた。
続く「スペイン」では、幼い姉妹二人がアルハンブラ宮殿をバックにフラメンコを踊る、なんともキュートな映像が流れ、思わず笑みがこぼれる。
プラハ」のパートでは、作曲家の村井がプラハでの思い出話を披露。スリに遭遇し、一日中拘置所の風景を見ていた、という、旅先にしてはなんともシュールなエピソードで、村井の軽妙なトークが客席を沸せた。
そして旅路は「オーストリア」のウィーンへ。かの有名なハプスブルク家の宮殿、シュテファン大聖堂、モーツァルト像などの映像が流れ、思わず脳内でウィーンミュージカルを上演してしまった人は少なくないだろう。

そしてスペシャルゲスト・朝夏まなとが登場。
浦井も朝夏もウィーンミュージカル『エリザベート』への出演経験があることから、エリザトークで一盛り上がり。朝夏は宝塚時代に組子とウィーンへ旅し、教会でシシィ、フランツを演じる仲間と共に「エリザごっこをした」という、「それはお金を払ってでも観たい!」と思わせる、なんとも豪華なエピソードが語られた。
そして朝夏の次回の出演ミュージカル『マイ・フェア・レディ』から、「じっとしていられない」を歌唱披露。軽快な曲と共に、朝夏イライザが会場を一気に華やかな空気へと変貌させた。

旅路の終盤は「ロンドン」へ。とある劇場の前で、4人のミュージカル俳優に遭遇する映像が流れる。なんと、彼らは『ジャージー・ボーイズ』でザ・フォー・シーズンズを演じるキャストたち。劇中のナンバーを振り付きでちょっとだけ披露してくれた。ミュージカル好きの客層を見越してピックアップした映像なのだろう、そのサービス心がうれしく感じる場面であった。
そして再び、浦井が一曲披露。朝夏に続き、ロンドンが舞台の『マイ・フェア・レディ』から、「君住む街」を。伸びやかな歌声が再び会場を包み込んだ。

村井がかつて大叔父からプレゼントされた、自身が描いた絵の街並みが、「世界ふれあい街歩き」を見ていて「あの絵と同じ景色だ!」と、初めてその絵がブルージュという街を描いていたことに20年越しに気付いた、という不思議な縁を感じるエピソードも語られ、そこから触発されて作曲したナンバー「Bruges」も披露された。晴れた日の長閑なブルージュの街並み、大叔父とのエピソード含め、心が洗われるような煌めきを感じる旋律の美しさがひと際印象に残った。

パンデミックにより気軽に旅に出ることが難しくなってしまったが、そんな状況だからこそ、旅気分を味わえる趣向を凝らしたこのコンサートは、訪れた観客の大きな癒しになったことだろう。そして芸術の力で、わたしたちはどこにいても心で旅をすることができるのだ、と改めて感じさせてもらえた2時間だった。


[写真:オフィシャル提供]